<グレアム・ボンドの悲劇> その1
60年代のサウンド・イノベーターの一人として称えられるグレアム・ボンドも、「Lease On Love」のような、他愛もないラブ・ソング(これは賛辞です)を歌っているうちは幸せだったですが・・・
ボンドはその後、浮沈を繰り返し、とうとう悲惨な最期を遂げることになります。今回はそのあたりにスポットライトを当ててみようと思います。
ストレンジ・デイズ監修のロック・レジェンド・シリーズで、『Holy Magick』が再発された時には仰天しました。プログ・ジャズとかオルガン・ブルースとかのカテゴリーを逸脱した極私的な黒魔術アルバムだったからです。
このアルバムは、妻のダイアン・スチュワート(Diane Stewarat)とのコラボ作品。ジャケットを見ただけで、何やらスピリチュアルな感触が伝わってきます。ストーンヘンジ(Stonehenge)の遺跡で、グレアムとダイアンが祈りを捧げる姿が目に入ります。
ストーンヘンジというのは宗教施設であったとか埋葬場所であったとか、はたまた天体観測所であったとか、諸説紛紛。悪魔が作ったという言い伝えすらある。
『アーサー王と円卓の騎士』(King Arthur and the Knights of the Round Table)に登場する魔術師マーリン(Merlin)がこの巨大な岩をアイルランドから移動させたという伝説(※)もあるくらい、この世界遺産は謎めいています。
※『ブリタニア列王史』(Historia Regum Britanniae)ジェフリー・オブ・モンマス(Geoffrey of Monmouth)著
1曲目は23分にも及ぶ黒魔術の儀式を想起させるトリッピーなジャム。トリッピーの一言でわかった気になってしまうと、ボンドの思想を表層で捉えただけで終わってしまうかもしれません。もちろん、プリミティヴでブルージーなアシッド・ソウル・ジャズ・ロックと表現したとしても同じことですが(笑)。
当時多くのミュージシャンが神秘主義の思想に染まっていきました。ロバート・フリップ(Robert Fripp)のようにグルジェフ(George Ivanovich Gurdjieff)の思想に心酔した者もあれば、ボンドのようにアレイスター・クロウリー(Aleister Crowley)の思想に狂信し、自分をクロウリーの生まれ変わりだと主張する者も現れました。
アレイスター・クロウリーとは「大いなる獣」(the Great Beast)と称されたオカルティスト。ザ・ビートルズの『Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band』のスリーヴにも載っています。最上段、左から二番目の人物です。拡大鏡を片手に、とくとご覧ください(笑)。
※女優メイ・ウェスト(Mae West)の左、ヨガの聖者であるスリ・ユクテスワ・ギリ(Sri Yukteswar Giri)の右の人物。
クロウリーを信奉したミュージシャンには、ブラック・サバス(Black Sabbath)のオジー・オズボーン(Ozzy Osbourne)や、デヴィッド・ボウイー(David Bowie)、スティーヴン・タイラー(Steven Tyler)、盲信のあまりクロウリーの館(ネス湖にあるBoleskine House)まで購入してしまったジミー・ペイジ(Jimmy page)などがあげれられます。ペイジはクロウリーの衣服や手書き原稿、儀式用の道具まで収集したという話です。
当時のロックは、その出自から、反体制的な色合いを持つことを存在意義としていました。そうした意味では、精神的な支柱をもとめる場合、ヨーロッパ文化の基盤をなすキリスト教的な枠組みに絡め取られるのをよしとせず、異文化的な宗教思想や異端な神秘主義に吸い寄せられていったのもわかる気がします。
(つづく・・・)
Graham Bond - Vocals, Alto Electric, Acoustic Saxophone
Diane Stewart - Vocals, Gong
Alex Dmochowski, Rick Gretch - Bass Guitar
Jerry Salisbury - Cornet
Godfrey McLean, Keith Bailey - Drums
John Morsehead, Kevin Stacey - Guitar
Big Pete Bailey - Percussion
John Gross - Tenor Saxophone
Aliki Ashman, Annette Brox - Vocals
Victor Brox - Vocals, Electric Piano, Piano, Vocals